これが
中世期から
近世期にかけて、さまざまな芸が体系化され伝授の形式を整えてゆくにつれて、単に芸能、技芸の体系というにとどまらず、それをめぐる思想や哲学的背景、さらに修行や日常生活の場においてこうした形而上的な問題をいかに生かし、みずからの
芸を高めてゆくかという問題が含められてゆくようになって成立したのが、
芸道という観念である。その成立に関しては中世期に盛んになった秘伝説と伝授思想の確立と、師系を重んじる
禅の発想が大きな影響を与えたと見るのが通説である。
芸能、技芸を技術的な問題としてのみ捉えることをせず、しばしば実生活と芸の世界を混同させて、常住坐臥が芸を高めるための契機であり、修行であると考え、しかのみならず当人の倫理性、道徳性がそのまま芸にあらわれるがゆえに、芸の向上は同時に人格の向上でなければならない、とするところに芸道の特徴がある。また芸の系統的な伝承を重んじ、先人をうやまうことが厚く、特に直接の
師弟関係を大切にするなど、水平方向的なひろがりよりも垂直方向的なつらなりを優先する。こうした考えかたは、日本独自の芸という観念の確立、心境や境地を特に重視する芸術観の尊重、芸系のたしかな伝承、芸が芸にとどまらず思索性を持つことによる内容の深化など、さまざまな効果をもたらしたが、一方で芸の世界における事大主義、神秘主義、普遍性の否定、
通に代表される特殊な閉鎖性を生むことにもなった。